その日、私はお祭りにいたんだよ。
好きな子と一緒にいたから、私も楽しくってね。
そのお祭りは春先、お神輿を担ぎながら海に入っていくって、
浜辺から見ていてかなり圧巻なんだよ。
そこは海辺が近くで寒い土地だったから、桜がまだ咲いていたっけ。
海風が吹く神社は寒いけど、きれいだったよ。
そんな寒い時に、海に入るのは誰だって嫌だろう?
そして、海に入る時っていうのは、ふんどしにならなきゃいけないんだよ。
あの子も「海に入るのがなかったら、どんなにいいか」って、嫌がっていたよ。
結局、ふんどしにはならずに、薄いTシャツを着て黒い長ズボンをはいて、
お神輿を担いで海に入ったのを見たよ。
とても勇ましかったよ。
海に入ったあとは、すぐに私のところに走ってきて
「来年からは絶対やらない。疲れる。」って言ったんだ。
あんな細っこいのがよく言うよ。
がっちりしてないから、大人たちにつぶされるんだって、笑ってやったよ。
そのあとは、ふたりでお祭りを回った。
時間を忘れるくらいに楽しくってね。
その頃、私の携帯にあんたの姉さんから何回も電話をもらっていたんだ。
あんたにも姉さんにも悪いけども、
こんなに楽しいのに、無粋な邪魔された気分でね。
つっけんどんに「なんだよ」って電話に出たのを覚えているよ。
きっと、周りは祭囃子でうるさかったから、大声でそんな言ってしまっただろうね。
電話先で、姉さんは泣いてたよ。
私はびっくりしてね。
私の電話はそんなに無愛想だっただろうかと、一瞬考えたけど。
すぐに祭囃子のあまり聞こえない場所まで、ひとりで飛んでいったよ。
姉さんは電話先でずーっと泣いてるんだ。
「どうした。大丈夫か。」って聞いたら、
逆にあっちから私がなだめられた。
いいか、落ち着いてよく聞いてくれと。
そして、あんたが亡くなった事を電話で告げられたんだ。
私がお祭りなんかで楽しい思いをしている間、
あんたは苦しかったろうね。
悲しかったろうね。
自分がみじめでみじめで仕方なかったろうね。
なんだか、よくわからなくなった。
薄暗い祭りの明かりと、小さな祭囃子を背に私も泣いていたよ。
あの子は嫌な思いをして海に入っても、
浜辺にいる私と離れたとしても、
いつでも海から戻ってこれる。
あんたはもう二度と戻ってこれないんだね。
来年も再来年も、
10年経っても、
結婚して、子供が生まれて、年をとっても
こんな風が吹き始めると思い出すんだろうね。
いつだって。
そんな記憶、一生思い出し続けるんだろうね。
私はあんたの墓前に立つ日を忘れないだろう。
一生分の楽しさと、一生分のみじめさを同時に味わった日。
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